はじめに

 食品の安全性を求める消費者の声は一層高まり、食品メーカーは、より厳しい微生物管理の対応に迫られています。穀類、香辛料等の粉粒体食品に付着する菌は、必ずしも有害ではありませんが、病原菌や食中毒菌に汚染されている可能性がある事を示唆しており、食品の安全性を確保するために殺菌処理が必要となります。粉粒体の殺菌処理法として加熱殺菌、薬剤殺菌あるいは放射線、紫外線照射等の手段がありますが、その有効性、簡便性、経済性等から見て今や加熱殺菌法が微生物殺菌の中核的な方法となっています。
 この加熱殺菌を有効適切に行うには、目標とする微生物の熱特性を理解するとともに、対象原料に対する加熱の影響も十分に知っておくことが肝要です。粉粒体食品の加熱殺菌は、タンパク質の変性、デンプン質のα化、ビタミン等の破壊、褐変・退色等を最小限に抑え、存在する微生物を目標レベルまで迅速かつ効率的に死滅させることにあります。そして何よりも大切なことは、超短時間加熱を実現する装置の選定と、それを適切に操作する運転技術の蓄積であります。
 過熱水蒸気による「気流式殺菌装置」は高温・高圧、超短時間加熱をkey-wordに開発・商品化されたもので、高温・高圧加熱装置としては30年余の歴史を誇るものです。ここでは粉粒体食品を加熱殺菌する場合の考え方を述べるととも、粉粒体食品全般を対象とした気流式殺菌装置、粒原料専用装置(SIRV)を紹介いたします。

なぜ過熱水蒸気なのか?

 加熱殺菌法には乾熱方式と湿熱方式があり、その効果には著しい差があることは良く知られています。例えばClostridium Sporogensを加熱殺菌した場合、120℃におけるD値(微生物を90%死滅させるのに要する時間)は、乾熱方式では115~195分ですが、湿熱方式ではわずかO.18~1.4分です。高温空気や間接加熱を用いた乾熱方式よりも、水蒸気を用いた湿熱方式の方が極めて有利であることが言えます。
 しかし、粉粒体食品を湿熱殺菌すると、水分の増加や団塊の形成により、殺菌後の再乾燥や解砕処理が必要になります。また、付着性、吸水性の強い粉粒体では、装置内に付着・閉塞等を発生させ、運転が不能になる場合があります。このようなことから、粉粒体食品の殺菌にはその効果や処理のしやすさなどから、乾熱と湿熱の両方の性質を持った「過熱水蒸気」が最も適しているわけです。
 過熱水蒸気は、ある圧力の飽和水蒸気をさらに加熱した水蒸気です。図1は水の状態図です。図中、飽和水蒸気曲線を境に下部は熱水域、上部は過熱水蒸気域を表しています。
 例えば、O.2MPa・Gの圧力下で水を加熱していくと、133℃で飽和水蒸気となり、さらに加熱していくと、過熱水蒸気となります。仮に180℃まで加熱したとすると、この点の状態を〔O.2MPa・G、180℃〕の過熱水蒸気と言い、飽和温度(133℃)との差47℃を「過熱度」と呼びます。
 適度な過熱度に設定された過熱水蒸気は、乾熱と湿熱の長所を併せ持ち、被殺菌物を必要以上に濡らすことなく、湿熱による殺菌効果を発揮し、極めて安定的な粉粒体の殺菌処理を可能とします。

なぜ高温・短時間殺菌が必要なのか?

 図2は食品中に含まれるチアミンの加熱による破壊割合と、指標菌胞子の熱死滅のそれとを比較したグラフです。
 例えば、A点約〔116℃、1300秒〕とB点約〔137℃、10秒〕は同じFo=6.0分の直線上にありますが、これは言い換えると殺菌の強さ・効果については同じであることを示しています。ここで注目すべきはチアミンの破壊割合です。A点では約20%破壊なのに対し、B点ではわずか1%に過ぎません。即ち同じ殺菌効果を上げる場合、低温長時間(A点)の加熱より高温短時間(B点)の加熱の方が被殺菌物の品質を損なわない、ということを示しているわけです。
 この気流式殺菌装置の場合、ほとんどの粉粒体食品は約4秒の加熱時間でその殺菌目的が達成されております。

なぜ高圧が必要なのか?

 図3は〔O.2MPa・G、153℃(過熱度20℃)〕の過熱水蒸気の気流管の中に、20℃の被殺菌物を投入した場合のプロフィールの一例を表しています。横軸には投入から排出に至る時間的な経過、縦軸には過熱水蒸気と被殺菌物の温度、及び被殺菌物水分を示します。
 これによると過熱水蒸気は被殺菌物が投入された直後、一時的に熱を奪われ、温度を下げます。しかし、気流管外部からの熱補給により再加熱され、元の153℃に復活します。一方被殺菌物は過熱水蒸気と触れ合い、湿熱をもらうことにより、極めて瞬時に20℃からこの過熱水蒸気(0.2MPa・G)の飽和温度である133℃まで上昇します。その際、被殺菌物の水分も一気に上昇しますが、周囲の過熱水蒸気の顕熱により再び乾燥を始め、元の水分値に近づいていきます。その間、被殺菌物の温度は133℃のまま約4秒間保たれ、大気中に排出されます。
 ここで大切なことは、被殺菌物が過熱水蒸気の顕熱を受け続けているにも関わらず、品温がこの過熱水蒸気の圧力に対応する飽和温度(この場合133℃)以上には上昇しないと言うことです。これはそれらのエネルギーが、被殺菌物が元来保有していた水分と、湿熱により与えられた水分との蒸発に使われるからです。
すなわち、水分蒸発が続く限り、品温は飽和温度のままであると言うことです。そして大気中への排出とともに一気に水分蒸発を伴いながら、大気圧の沸点である100℃近辺に下がります。
 以上のことから殺菌温度、すなわち被殺菌物の到達温度は過熱水蒸気温度ではなく、それに対応する圧力の飽和温度に他なりません。つまり、殺菌温度を上げるためには圧力をかけることが必要不可欠で、もし大気圧のままでは水分がある限り100℃以上には加熱できないということです。
 気流式殺菌装置(KPU)はMaxO.3MPa・G、粒専用殺菌装置(SIRV)はMaxO.55MPa・Gまで蒸気圧力を上げることが出来ます。

なぜ超短時間殺菌が可能なのか?

 加熱媒体と被殺菌物との接触効率が極めて高い「気流式」であること、またその媒体が湿熱の「過熱水蒸気」であること、この2つの大きな理由により、気流管内で極めて効率的な熱の授受が行われ、約4秒という超短時間殺菌を可能にしているのです。

気流式殺菌装置とは?

 本カタログの3頁に示されたフローシートにより、その原理、作用を説明いたします。高温・高圧に設定された過熱水蒸気は、蒸気循環プロワーにより気流管中を高速(20~30m/s)で流れ、加熱殺菌系内を循環しています。粉粒体食品は定量フィーダから投入高圧ロータリーバルブにより、気流管内へ連続的に投入され、管内を流れる過熱水蒸気中を分散浮遊しながら移送される間に、瞬時に加熱殺菌されます。そして高圧サイクロンで捕集され、排出高圧ロータリーバルブから加圧系外へ排出されます。この間約4秒です。
 排出高圧ロ一タリーバルブから排出された粉粒体食品は、多少の水蒸気を同伴しているため、蒸気分離用サイクロンにてこれらを分離し、さらに冷却輸送され、製品捕集サイクロンで回収されます。
 又、排出高圧ロータリーバルブ以降は二次汚染防止のために配管類、サイクロン等の機器類は、全てサニタリー仕様であり、冷却輸送等に用いる空気も除菌フィルタ(HEPA)を通したもので、しかも圧送方式です。

粒専用殺菌装置とは?

 従来の気流式殺菌装置をベースに、高圧ロータリーバルブの特徴を生かした粒専用殺菌装置SIRV(サーブ)を開発しました。コンセプトは被殺菌対象を粒状原料に限定することにより、装置価格の低減、コンパクト化そしてメンテナンスの軽減化であります。
 特殊設計した高圧ロータリーバルブのみで殺菌処理するシステム(特許出願中)は、最小限の機器構成で極めて簡素化されています。特徴、機器構成、殺菌例等は本カタログに紹介されている通りです。
 粒原料は高圧ロータリーバルブのポケット内に一定量ずつ供給され、設定されたスピードで約3/4周回転し排出されます。その際、各ポケットに直接、過熱水蒸気が吹き込まれることにより、加熱されます。これはあたかも少量づつ分配された被殺菌物が「少量連続回転式オートクレーブ」にかける如きです。
 さらにこの装置は高圧ロータリーバルブの回転速度を変えることにより、殺菌効果の大きな要素である加熱時間を自由に設定できることも大きな特徴の一つです。
 排出後の蒸気分離等は従来の気流式と同様ですが、冷却方法は粒専用ということで冷却時間を要するため、移動層式、振動移送式などが採用されます。
 殺菌データ例にもありますが、特に黒胡椒は初発菌数、持に耐熱性菌数が多く、殺菌が困難な原料の一種であります。殺菌圧力を高めること、殺菌時間を長くすることで103個/g以下の殺菌を実現しております。

おわりに

 以上申し述べましたように、粉粒体殺菌システムは広範囲な原料を対象とした気流式(KPU)、粒原料専用タイプ(SIRV)の二種類が用意されており、これらを適切に選定することは、お寄様の殺菌事業にとり、殺菌効果、品質、コスト等の面で、必ずやご満足いただける結果を出せるものと確信しております。
 しかし、本技術は過熱水蒸気の特性、粉粒体の物性の難しさから、その奥行きはまだまだ深く、課題も山積しています。今後とも気流式をベースに更なる研究を進め、高性能、低価格、しかも食品製造現場に手軽にご使用いただける装置開発をめざす所存です。